法定地上権
2025年11月19日
『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9
ガイダンス
民法388条は、「土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす」と規定しており、本条によって成立する地上権を法定地上権といいます。これは、抵当権の実行によって敷地利用権を失い、建物を取り壊さなくてはならないという社会的経済的損失を防止するための制度です。
1番抵当権設定時に土地建物の所有者が異なる場合① (最判平2.1.22)
■事件の概要
本件土地は、もとAの所有であり、その地上にはAの子Bが甲建物を建築して所有していたが、CのDに対する債権を担保するため、本件土地および甲建物を共同担保の目的として第1順位の抵当権が設定され、その旨の登記を経由した。その後、Aが死亡したことにより本件土地を相続したDは、甲建物を取り壊して乙建物を建築した後、本件土地に2番抵当権を設定し、その旨の登記を経由した。他方、Xは、1番抵当権の実行により本件土地を競落しその所有権を取得したが、競売手続中に乙建物が焼失したため、Bは、本件土地をYに賃貸し、Yは、丙建物を建築して本件土地を占有している。そこで、Xは、Yに対し、丙建物を収去して本件土地を明け渡すよう求めた。
判例ナビ
第1審が法定地上権の成立を否定してXの請求を棄却したのに対し、控訴審は法定地上権の成立を認めてXの請求を認容したため、Yが上告しました。このように、本件は法定地上権の成否がポイントとなりますが、事実がやや複雑であるため、問題点が分かりにくいと思います。そこで、時間の流れに沿って、土地の所有者と建物の所有者が誰であるかを図示すると、次のようになります。この図から、「土地に1番抵当権を設定した時には土地と建物の所有者が異なっていたが、2番抵当権を設定した時には同一所有者である場合において、1番抵当権が実行されたときは、法定地上権が成立するか」が問題であることが分かると思います。
■裁判所の判断
土地について抵当権が設定された当時と土地と建物の所有権が異なり、法定地上権成立の要件が充足されていなかった場合には、土地と建物を同一人が所有するに至った後に後順位抵当権が設定されたとしても、その後に抵当権が実行され、土地が競落されたことにより法定地上権が当然に成立するときには、地上建物のためには法定地上権ないしこれと解するのが相当である。けだし、民法388条は、同一人の所有に属する土地及びその地上建物のいずれか又は双方に設定された抵当権が実行され、土地と建物の所有者を異にするに至った場合、土地について建物利用のため、土地の維持が続かなくなることによる社会的経済上の損失を防止するため、地上建物がないものと解するのが相当である。
土地と建物の所有者を異にするに至った当時、地上建物について法定地上権の成立要件が充足されていた場合には、1番抵当権者は、法定地上権の負担のないものとして、土地の担保価値を把握するのであるから、後に土地と建物の所有者が同一人に帰属し、後順位抵当権が設定されたことによって法定地上権が成立するとすると、1番抵当権者が把握した担保価値を損なわせることになるからである。
解説
本件の場合、法定地上権が成立するとすると土地を譲り受けるかと言えば、それは抵当権を実行した1番抵当権者です。抵当権設定当時、土地と建物の所有者が異なっているので、1番抵当権者としては、将来、抵当権を実行しても法定地上権の負担がないものとして、その担保価値を高く評価しているからです。そこで、本判決は、法定地上権の成立を認めた控訴審判決を破棄しました。
◆この分野の重要判例
1番抵当権設定時に土地建物の所有者が異なる場合② (最判平19.7.6)
土地を目的とする1番抵当権の設定後、2番抵当権の設定までの間に乙建物の所有者により土地と建物の所有者が同一に帰属した場合であっても、2番抵当権が設定された当時土地と建物の所有者が同一である場合には、1番抵当権が実行されたときは、法定地上権が成立すると解するのが相当である。
共同抵当権の再築 (最判平9.2.14)
■事件の概要
Yは、Aに対する金銭債権を担保するため、自己が所有する土地(本件土地)と地上建物(旧建物)に共同根抵当権(本件根抵当権)を設定し、その旨の登記を了した。その後、Yは、Aの同意を得て旧建物をとりこわして、Aは、本件土地を更地として評価して被担保債権の額を増額した。1992(平成4)年9月、Aは、本件根抵当権について本件土地の極度額を甲とし、本件根抵当権の登記がされたが、本件根抵当権と被担保債務を、AからXに譲渡され、Xがその旨の登記を承継した。他方、本件土地は、YからZに贈与され、YからZに所有権移転登記がされた。(平成4)年9月、Zは、本件土地に新築建物を建築した。2003(平成15)年の民法の改正(民法395条)のただし書により、短期賃貸借が抵当権者に損害を及ぼすときは、裁判所は、抵当権者の請求により解除を命ずることができる旨規定していた。そこで、Xは、YZに対し、改正前民法395条ただし書に基づいて本件短期賃貸借の解除請求をした。
過去問
Aが所有する土地1番抵当権が設定・登記された当時、当該土地の建物をBが所有していた場合には、その後、Aが当該建物をBから譲り受け、当該土地と後順位抵当権が設定・登記されたとしても、1番抵当権が実行され、当該土地が競落されたときは、法定地上権は成立しない。 (公務員2019年)
土地と地上建物の所有者が同一である場合に、土地と地上建物の双方に共同して抵当権が設定された後に、その建物が取り壊されて土地上に新たな建物が築造され、抵当権の実行により土地と建物の所有者が異なるに至ったときは、法定地上権は成立しない。 (司法書士2022年)
○ 1. 土地について1番抵当権が設定された当時と土地と建物の所有者が異なり、法定地上権成立の要件が充足されていなかった場合には、土地と建物を同一人が所有するに至った後に後順位抵当権が設定されたとしても、その後に1番抵当権が実行され、土地が競落されたことにより1番抵当権が消滅するときには、地上建物について法定地上権は成立しません(最判平21.2.2)。
○ 2. 甲抵当権消滅後の乙抵当権実行により土地の法定地上権を認めても、乙抵当権者に不測の損害を与えることはありません。また、甲抵当権は消滅しているので、法定地上権の成立を判断するに甲抵当権者の利益を考慮する必要もありません。したがって、法定地上権が成立します(最判平19.7.6)。
解説
本件は、土地建物の所有者が、土地への1番抵当権(判決文では甲抵当権)設定当時は別人、2番抵当権(判決文では乙抵当権)設定当時は同一人の場合において、1番抵当権消滅後に2番抵当権が実行されたという事案です。本判決が法定地上権の成立を肯定したのは、最後(2番抵当権実行前)に、1番抵当権の消滅により、消滅前にすでに設定契約の特約により消滅しており、法定地上権の成立を認めても、不測の損害を被る者がいなかったからです。
判例ナビ
第1審が解除請求を認めたため、YZは控訴した。新たに「本件は、本件土地上の新建物のために法定地上権が成立する場合であるから、Xが認識している本件土地の担保価値は、本件土地の価格そのものではなく、当該建物のために法定地上権の負担を考慮した価格である」と主張し引いたものです。乙抵当権者は、本件短期賃貸借はXに損害を及ぼすものではないと主張しました。控訴審は、この主張を退けてYZの控訴を棄却したため、YZが上告しました。
■裁判所の判断
土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後、右建物が取り壊され、右土地上に新たに建物が建築された場合には、新築建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新築建物が建築された時点での土地の抵当権者が新築建物の建築に同意し、新築建物のために法定地上権の成立を認める旨の合意が客観的に存在し、建物を取り壊されたときは法定地上権の成立を認める旨の合意が客観的に存在し、新築建物のために法定地上権を認めるのが、抵当権設定当事者の合理的意思に合致するとして、抵当権者は、土地の担保価値を把握しておらず、抵当権者は、土地の担保価値を把握していることを前提に、不測の損害を被る結果になることになって、不測の損害を被る結果になる。
解説
本件では、土地と地上建物(旧建物)に共同抵当権が設定され、旧建物が取り壊されて新建物が建築された場合に、新建物について法定地上権が成立するかどうかが問題となりました。本判決は、抵当権者が建物全体の担保価値を把握している(全体価値説)ことに配慮し、新建物が建築された場合には、「新築建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新築建物の建築された時点での土地の抵当権者が新築建物のために法定地上権の成立を認める旨の合意」等、法定地上権の成立を認めるための特別な事情がない限り、法定地上権の成立を認めないものとして、抵当権者の利益を保護することを優先しました。
◆この分野の重要判例
更地と法定地上権 (最判昭36.2.10)
民法388条により法定地上権が成立するためには、抵当権設定当時において地上に建物が存在することを要するのであって、抵当権設定当時土地を更地とした場合は原則として同条の適用がないものと解するを相当とする。然るに本件建物は本件土地に対する抵当権実行手続完了して競落人があった当時、昭和25年頃から建築中であり、昭和26年5月頃までは未だ完成しなかったことは原審認定のところであり、また土地所有者が本件建物の築造を予め承認していた事実はあっても、原判決説示のごとく長年本件土地を更地として評価して設定されたことが明らかであるから、民法388条の適用を認むべきではなく、この点に関する原審の判断は正当である。
過去問
所有者が土地および地上建物に共同抵当権を設定した後、当該建物が取り壊され、その土地上に新たな建物が建築された場合には、新築建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新築建物の建築された時点での土地の抵当権者が新築建物のために法定地上権の成立を認める旨の合意があるという特段の事情のない限り、新築建物のために法定地上権は成立しない。
(公務員2016年)
共有する甲土地上にBが乙建物を建築して所有権を登記していたところ、AがBから乙建物を買い取り、その後、Aが甲土地に設定した抵当権の実行により乙建物と甲土地の所有者が異なるに至ったとしても、甲土地に設定された抵当権が実行されたとしても、甲土地に法定地上権は成立しない。
(宅建士2018年)
○ 1. 土地と建物に共同抵当権が設定された場合、抵当権者は土地・建物全体の担保価値を把握しているのであり、土地・建物が取り壊されて新たに建物が建築された場合には、本件にあるような特段の事情がない限り、新築建物のために法定地上権は成立しません(最判平9.2.14)。
○ 2. 更地に抵当権を設定した後、その後に建物を建築しても、法定地上権は成立しません(最判昭36.2.10)。
土地建物ともに共有の場合と法定地上権 (最判平6.12.20)
■事件の概要
Aは、1980(昭和55)年2月、その所有する土地(本件土地)をYとその妻のZに贈与したが、1983(昭和58)年12月、Yとその妻は、本件土地にYを債務者としてBのための抵当権を設定し、その旨の登記をした。一方、Aが所有する本件土地上の建物(本件建物)は、1981(昭和56)年1月にAが死亡したことにより、Yを含むAの子9名が相続した。なお、Aは、もともと本件建物をYに贈与する意向であったが、土地については、Yに単独で贈与税を支払う資力がないことから、Yとその妻Zに贈与した。建物については、Yが失業して失職して債務者から差押えを受けるおそれがあったことから、Aの所有名義のままにしてあった。本件土地は、1985(昭和60)年12月、Bの申立てにより、抵当権に基づく競売手続が開始され、Xが買い受けてその所有権を取得した。
判例ナビ
Xは、Yを含む建物共有者に対し建物収去土地明渡しを求めて訴えを提起しました。第1審は、Xの請求を認容しましたが、控訴審は、本件土地の共有者全員について法定地上権が成立するとして、Xの請求を棄却しました。そこで、Xが上告しました。
■裁判所の判断
共有者は、各自、共有物について所有権と性質を同じくする独立の持分を有しているのであり、かつ、共有地全体に対する地上権負担は共有者の全員となるのであるから、土地共有者の一人だけについて民法388条本文により地上権を設定したものとみなすべき事由が生じたとしても、他の共有者らがその持分につき土地に対する使用収益権を事実上放棄し、右土地共有者の持分のためにのみ土地の利用を認めることを承認したことが分かるときには、土地と建物の所有者が異なるに至ったときに土地の利用関係の調整を図る趣旨からすれば、土地共有者らが共有地について認定される場合でなければ、土地共有者が各自の持分について原判示のように認定するに当たっては、本件土地の共有者らは、共同して、本件土地の各持分についてBと抵当権を設定しているのであり、土地共有者の持分を併せて考えられるので、同条は、土地共有者の共有持分権は考慮されるべきであるから、土地共有者の共有関係が複雑になり、土地共有者の人間関係が損なわれるおそれがある。しかも、土地共有者の間では、抵当権の実行によって建物所有者が取得する法定地上権の存続期間が明らかにされず、第三者にはうかがい知ることのできないものであるから、法定地上権設定の有無を判断することができず、土地の担保価値を著しく害するおそれがある。そうすると、土地共有者の持分についてのみ法定地上権の成立を認めることはできない。そうすると、土地共有者の客観的事情によって法定地上権の成立を認めることは相当ではない。そうすると、土地共有者のうちの一部の者であるYが抵当権設定当時において本件建物の共有持分のみを所有していたにすぎない本件においては、土地共有者のうちの1名であるYほか本件土地の共有者が法定地上権の発生をあらかじめ容認していたことをみることはできない。
◆建物の共有と法定地上権 (最判昭46.12.21)
建物の共有者の一人がその建物の敷地たる土地を単独で所有する場合においては、同人は、自己のみならず他の建物共有者のためにも右土地の利用を認めているものというべきであるから、同人から右土地に抵当権を設定して、この抵当権の実行により、第三者が右土地を競落したときは、民法388条の趣旨により、抵当権設定当時に同人が土地および建物を単独で所有していた場合と同様、右土地に法定地上権が成立するものと解するのが相当である。
解説
本件では、土地建物がともに共有に属し、共有者の1人について民法388条本文の要件が満たされている場合、法定地上権が成立するかどうかが問題となりました。本判決は、原則として法定地上権の成立を否定し、ただ、他の共有者が法定地上権の発生をあらかじめ容認していたとみることができるような特段の事情がある場合に限って法定地上権が成立するとしました。そして、「特段の事情」の存在は、客観的かつ明確に外部に公示されるものでなければならないとしました。
過去問
建物の共有者の1人がその敷地を単独で所有する場合において、当該土地に設定された抵当権が実行され、第三者がこれを競落したときは、当該土地につき、建物共有者全員のために、法定地上権が成立する。 (公務員2016年)
AとBが共有する土地の上のAが所有する建物が存在する場合において、Aが当該土地の自己の共有持分に抵当権を設定・登記し、これが実行されて当該土地がCに競落されたときは、Bの意思にかかわらず、法定地上権が成立する。 (公務員2019年)
○ 1. 建物の共有者の1人がその建物の敷地を単独で所有する場合、その共有者は、自己のみならず他の建物共有者のためにも土地の利用を認めていると考えられるので、土地に設定された抵当権が実行され、第三者が競落したときは、当該土地につき、建物共有者全員のために、法定地上権が成立します(最判昭46.12.21)。
× 2. 本問の場合、Bの意思いかんにかかわらずBの共有持分が無視される理由はありません。したがって、法定地上権は成立しません(最判昭29.12.23)。
民法388条は、「土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす」と規定しており、本条によって成立する地上権を法定地上権といいます。これは、抵当権の実行によって敷地利用権を失い、建物を取り壊さなくてはならないという社会的経済的損失を防止するための制度です。
1番抵当権設定時に土地建物の所有者が異なる場合① (最判平2.1.22)
■事件の概要
本件土地は、もとAの所有であり、その地上にはAの子Bが甲建物を建築して所有していたが、CのDに対する債権を担保するため、本件土地および甲建物を共同担保の目的として第1順位の抵当権が設定され、その旨の登記を経由した。その後、Aが死亡したことにより本件土地を相続したDは、甲建物を取り壊して乙建物を建築した後、本件土地に2番抵当権を設定し、その旨の登記を経由した。他方、Xは、1番抵当権の実行により本件土地を競落しその所有権を取得したが、競売手続中に乙建物が焼失したため、Bは、本件土地をYに賃貸し、Yは、丙建物を建築して本件土地を占有している。そこで、Xは、Yに対し、丙建物を収去して本件土地を明け渡すよう求めた。
判例ナビ
第1審が法定地上権の成立を否定してXの請求を棄却したのに対し、控訴審は法定地上権の成立を認めてXの請求を認容したため、Yが上告しました。このように、本件は法定地上権の成否がポイントとなりますが、事実がやや複雑であるため、問題点が分かりにくいと思います。そこで、時間の流れに沿って、土地の所有者と建物の所有者が誰であるかを図示すると、次のようになります。この図から、「土地に1番抵当権を設定した時には土地と建物の所有者が異なっていたが、2番抵当権を設定した時には同一所有者である場合において、1番抵当権が実行されたときは、法定地上権が成立するか」が問題であることが分かると思います。
■裁判所の判断
土地について抵当権が設定された当時と土地と建物の所有権が異なり、法定地上権成立の要件が充足されていなかった場合には、土地と建物を同一人が所有するに至った後に後順位抵当権が設定されたとしても、その後に抵当権が実行され、土地が競落されたことにより法定地上権が当然に成立するときには、地上建物のためには法定地上権ないしこれと解するのが相当である。けだし、民法388条は、同一人の所有に属する土地及びその地上建物のいずれか又は双方に設定された抵当権が実行され、土地と建物の所有者を異にするに至った場合、土地について建物利用のため、土地の維持が続かなくなることによる社会的経済上の損失を防止するため、地上建物がないものと解するのが相当である。
土地と建物の所有者を異にするに至った当時、地上建物について法定地上権の成立要件が充足されていた場合には、1番抵当権者は、法定地上権の負担のないものとして、土地の担保価値を把握するのであるから、後に土地と建物の所有者が同一人に帰属し、後順位抵当権が設定されたことによって法定地上権が成立するとすると、1番抵当権者が把握した担保価値を損なわせることになるからである。
解説
本件の場合、法定地上権が成立するとすると土地を譲り受けるかと言えば、それは抵当権を実行した1番抵当権者です。抵当権設定当時、土地と建物の所有者が異なっているので、1番抵当権者としては、将来、抵当権を実行しても法定地上権の負担がないものとして、その担保価値を高く評価しているからです。そこで、本判決は、法定地上権の成立を認めた控訴審判決を破棄しました。
◆この分野の重要判例
1番抵当権設定時に土地建物の所有者が異なる場合② (最判平19.7.6)
土地を目的とする1番抵当権の設定後、2番抵当権の設定までの間に乙建物の所有者により土地と建物の所有者が同一に帰属した場合であっても、2番抵当権が設定された当時土地と建物の所有者が同一である場合には、1番抵当権が実行されたときは、法定地上権が成立すると解するのが相当である。
共同抵当権の再築 (最判平9.2.14)
■事件の概要
Yは、Aに対する金銭債権を担保するため、自己が所有する土地(本件土地)と地上建物(旧建物)に共同根抵当権(本件根抵当権)を設定し、その旨の登記を了した。その後、Yは、Aの同意を得て旧建物をとりこわして、Aは、本件土地を更地として評価して被担保債権の額を増額した。1992(平成4)年9月、Aは、本件根抵当権について本件土地の極度額を甲とし、本件根抵当権の登記がされたが、本件根抵当権と被担保債務を、AからXに譲渡され、Xがその旨の登記を承継した。他方、本件土地は、YからZに贈与され、YからZに所有権移転登記がされた。(平成4)年9月、Zは、本件土地に新築建物を建築した。2003(平成15)年の民法の改正(民法395条)のただし書により、短期賃貸借が抵当権者に損害を及ぼすときは、裁判所は、抵当権者の請求により解除を命ずることができる旨規定していた。そこで、Xは、YZに対し、改正前民法395条ただし書に基づいて本件短期賃貸借の解除請求をした。
過去問
Aが所有する土地1番抵当権が設定・登記された当時、当該土地の建物をBが所有していた場合には、その後、Aが当該建物をBから譲り受け、当該土地と後順位抵当権が設定・登記されたとしても、1番抵当権が実行され、当該土地が競落されたときは、法定地上権は成立しない。 (公務員2019年)
土地と地上建物の所有者が同一である場合に、土地と地上建物の双方に共同して抵当権が設定された後に、その建物が取り壊されて土地上に新たな建物が築造され、抵当権の実行により土地と建物の所有者が異なるに至ったときは、法定地上権は成立しない。 (司法書士2022年)
○ 1. 土地について1番抵当権が設定された当時と土地と建物の所有者が異なり、法定地上権成立の要件が充足されていなかった場合には、土地と建物を同一人が所有するに至った後に後順位抵当権が設定されたとしても、その後に1番抵当権が実行され、土地が競落されたことにより1番抵当権が消滅するときには、地上建物について法定地上権は成立しません(最判平21.2.2)。
○ 2. 甲抵当権消滅後の乙抵当権実行により土地の法定地上権を認めても、乙抵当権者に不測の損害を与えることはありません。また、甲抵当権は消滅しているので、法定地上権の成立を判断するに甲抵当権者の利益を考慮する必要もありません。したがって、法定地上権が成立します(最判平19.7.6)。
解説
本件は、土地建物の所有者が、土地への1番抵当権(判決文では甲抵当権)設定当時は別人、2番抵当権(判決文では乙抵当権)設定当時は同一人の場合において、1番抵当権消滅後に2番抵当権が実行されたという事案です。本判決が法定地上権の成立を肯定したのは、最後(2番抵当権実行前)に、1番抵当権の消滅により、消滅前にすでに設定契約の特約により消滅しており、法定地上権の成立を認めても、不測の損害を被る者がいなかったからです。
判例ナビ
第1審が解除請求を認めたため、YZは控訴した。新たに「本件は、本件土地上の新建物のために法定地上権が成立する場合であるから、Xが認識している本件土地の担保価値は、本件土地の価格そのものではなく、当該建物のために法定地上権の負担を考慮した価格である」と主張し引いたものです。乙抵当権者は、本件短期賃貸借はXに損害を及ぼすものではないと主張しました。控訴審は、この主張を退けてYZの控訴を棄却したため、YZが上告しました。
■裁判所の判断
土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後、右建物が取り壊され、右土地上に新たに建物が建築された場合には、新築建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新築建物が建築された時点での土地の抵当権者が新築建物の建築に同意し、新築建物のために法定地上権の成立を認める旨の合意が客観的に存在し、建物を取り壊されたときは法定地上権の成立を認める旨の合意が客観的に存在し、新築建物のために法定地上権を認めるのが、抵当権設定当事者の合理的意思に合致するとして、抵当権者は、土地の担保価値を把握しておらず、抵当権者は、土地の担保価値を把握していることを前提に、不測の損害を被る結果になることになって、不測の損害を被る結果になる。
解説
本件では、土地と地上建物(旧建物)に共同抵当権が設定され、旧建物が取り壊されて新建物が建築された場合に、新建物について法定地上権が成立するかどうかが問題となりました。本判決は、抵当権者が建物全体の担保価値を把握している(全体価値説)ことに配慮し、新建物が建築された場合には、「新築建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新築建物の建築された時点での土地の抵当権者が新築建物のために法定地上権の成立を認める旨の合意」等、法定地上権の成立を認めるための特別な事情がない限り、法定地上権の成立を認めないものとして、抵当権者の利益を保護することを優先しました。
◆この分野の重要判例
更地と法定地上権 (最判昭36.2.10)
民法388条により法定地上権が成立するためには、抵当権設定当時において地上に建物が存在することを要するのであって、抵当権設定当時土地を更地とした場合は原則として同条の適用がないものと解するを相当とする。然るに本件建物は本件土地に対する抵当権実行手続完了して競落人があった当時、昭和25年頃から建築中であり、昭和26年5月頃までは未だ完成しなかったことは原審認定のところであり、また土地所有者が本件建物の築造を予め承認していた事実はあっても、原判決説示のごとく長年本件土地を更地として評価して設定されたことが明らかであるから、民法388条の適用を認むべきではなく、この点に関する原審の判断は正当である。
過去問
所有者が土地および地上建物に共同抵当権を設定した後、当該建物が取り壊され、その土地上に新たな建物が建築された場合には、新築建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新築建物の建築された時点での土地の抵当権者が新築建物のために法定地上権の成立を認める旨の合意があるという特段の事情のない限り、新築建物のために法定地上権は成立しない。
(公務員2016年)
共有する甲土地上にBが乙建物を建築して所有権を登記していたところ、AがBから乙建物を買い取り、その後、Aが甲土地に設定した抵当権の実行により乙建物と甲土地の所有者が異なるに至ったとしても、甲土地に設定された抵当権が実行されたとしても、甲土地に法定地上権は成立しない。
(宅建士2018年)
○ 1. 土地と建物に共同抵当権が設定された場合、抵当権者は土地・建物全体の担保価値を把握しているのであり、土地・建物が取り壊されて新たに建物が建築された場合には、本件にあるような特段の事情がない限り、新築建物のために法定地上権は成立しません(最判平9.2.14)。
○ 2. 更地に抵当権を設定した後、その後に建物を建築しても、法定地上権は成立しません(最判昭36.2.10)。
土地建物ともに共有の場合と法定地上権 (最判平6.12.20)
■事件の概要
Aは、1980(昭和55)年2月、その所有する土地(本件土地)をYとその妻のZに贈与したが、1983(昭和58)年12月、Yとその妻は、本件土地にYを債務者としてBのための抵当権を設定し、その旨の登記をした。一方、Aが所有する本件土地上の建物(本件建物)は、1981(昭和56)年1月にAが死亡したことにより、Yを含むAの子9名が相続した。なお、Aは、もともと本件建物をYに贈与する意向であったが、土地については、Yに単独で贈与税を支払う資力がないことから、Yとその妻Zに贈与した。建物については、Yが失業して失職して債務者から差押えを受けるおそれがあったことから、Aの所有名義のままにしてあった。本件土地は、1985(昭和60)年12月、Bの申立てにより、抵当権に基づく競売手続が開始され、Xが買い受けてその所有権を取得した。
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Xは、Yを含む建物共有者に対し建物収去土地明渡しを求めて訴えを提起しました。第1審は、Xの請求を認容しましたが、控訴審は、本件土地の共有者全員について法定地上権が成立するとして、Xの請求を棄却しました。そこで、Xが上告しました。
■裁判所の判断
共有者は、各自、共有物について所有権と性質を同じくする独立の持分を有しているのであり、かつ、共有地全体に対する地上権負担は共有者の全員となるのであるから、土地共有者の一人だけについて民法388条本文により地上権を設定したものとみなすべき事由が生じたとしても、他の共有者らがその持分につき土地に対する使用収益権を事実上放棄し、右土地共有者の持分のためにのみ土地の利用を認めることを承認したことが分かるときには、土地と建物の所有者が異なるに至ったときに土地の利用関係の調整を図る趣旨からすれば、土地共有者らが共有地について認定される場合でなければ、土地共有者が各自の持分について原判示のように認定するに当たっては、本件土地の共有者らは、共同して、本件土地の各持分についてBと抵当権を設定しているのであり、土地共有者の持分を併せて考えられるので、同条は、土地共有者の共有持分権は考慮されるべきであるから、土地共有者の共有関係が複雑になり、土地共有者の人間関係が損なわれるおそれがある。しかも、土地共有者の間では、抵当権の実行によって建物所有者が取得する法定地上権の存続期間が明らかにされず、第三者にはうかがい知ることのできないものであるから、法定地上権設定の有無を判断することができず、土地の担保価値を著しく害するおそれがある。そうすると、土地共有者の持分についてのみ法定地上権の成立を認めることはできない。そうすると、土地共有者の客観的事情によって法定地上権の成立を認めることは相当ではない。そうすると、土地共有者のうちの一部の者であるYが抵当権設定当時において本件建物の共有持分のみを所有していたにすぎない本件においては、土地共有者のうちの1名であるYほか本件土地の共有者が法定地上権の発生をあらかじめ容認していたことをみることはできない。
◆建物の共有と法定地上権 (最判昭46.12.21)
建物の共有者の一人がその建物の敷地たる土地を単独で所有する場合においては、同人は、自己のみならず他の建物共有者のためにも右土地の利用を認めているものというべきであるから、同人から右土地に抵当権を設定して、この抵当権の実行により、第三者が右土地を競落したときは、民法388条の趣旨により、抵当権設定当時に同人が土地および建物を単独で所有していた場合と同様、右土地に法定地上権が成立するものと解するのが相当である。
解説
本件では、土地建物がともに共有に属し、共有者の1人について民法388条本文の要件が満たされている場合、法定地上権が成立するかどうかが問題となりました。本判決は、原則として法定地上権の成立を否定し、ただ、他の共有者が法定地上権の発生をあらかじめ容認していたとみることができるような特段の事情がある場合に限って法定地上権が成立するとしました。そして、「特段の事情」の存在は、客観的かつ明確に外部に公示されるものでなければならないとしました。
過去問
建物の共有者の1人がその敷地を単独で所有する場合において、当該土地に設定された抵当権が実行され、第三者がこれを競落したときは、当該土地につき、建物共有者全員のために、法定地上権が成立する。 (公務員2016年)
AとBが共有する土地の上のAが所有する建物が存在する場合において、Aが当該土地の自己の共有持分に抵当権を設定・登記し、これが実行されて当該土地がCに競落されたときは、Bの意思にかかわらず、法定地上権が成立する。 (公務員2019年)
○ 1. 建物の共有者の1人がその建物の敷地を単独で所有する場合、その共有者は、自己のみならず他の建物共有者のためにも土地の利用を認めていると考えられるので、土地に設定された抵当権が実行され、第三者が競落したときは、当該土地につき、建物共有者全員のために、法定地上権が成立します(最判昭46.12.21)。
× 2. 本問の場合、Bの意思いかんにかかわらずBの共有持分が無視される理由はありません。したがって、法定地上権は成立しません(最判昭29.12.23)。